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『AERA』に掲載されたノンフィクションで、
「現代の肖像」という、5~6ページである人物の半生を紹介するものがあるらしい。
その中で著者が担当した20選をまとめたものがこの本だ。
本人へのインタビューに加え、
両親・友人・恩師・夫・仕事仲間などの周辺人物にも綿密な取材を行うため、
記事を読んでから一週間は連絡がなくなり、
その後、お礼の電話がかかってくるという伝説のインタビュー…だそうである。

まぁ、こういったことはこの本を手にしてから知った。
知っていても知らなくても、僕にとっては関係が無いことであった。
何故かと言うと、書店で見つけて手にしたのは次の理由だからだ。

 2001年に単行本として発表されたものの文庫化。
 しかも、新たに単行本未収録の4人を加えて。
 4人とは中島みゆき・重信メイ(重信房子の娘)・たかの友梨・山本文緒。

この本を手にした理由は、もちろん中島みゆきと山本文緒だ。

取り上げられている女性は幅広い分野から選ばれており、
おおまかに4つのテーマで分けられている。
まず「欲望」というテーマの括りでは桃井かおり、一条ゆかり、林真理子、たかの友梨など6名。
「表現」としては中島みゆき、大竹しのぶなど5名。
「母の娘・父の娘」として山本文緒など4名。
そして「闘い」として田嶋陽子など5名だ。

それぞれの章のアタマには、取り上げられた女性の近影が飾る。

僕自身の好き嫌い知る知らないに関わらず、それぞれの話は楽しめたものばかりであったが、
中島みゆきと山本文緒の章は、ファンであることもあるのだろうが別格の印象である。
ここで初めて聞いた(知った)エピソードも多く、
ほんの短い分量だけれど読み応えは長編ノン・フィクション並みであった。

中島みゆきへの取材が行われたのは2005年の1月。
事務所からは「過去を振り返るのは早い」と断られ、近影も入手できず、
周辺取材中には「音楽業界では仕事ができなくなるよ」という忠告をある人から受けたと言う。
結局、本人へのインタヴューはされなかったようで、
中島みゆきの声は、雑誌や新聞での過去の発言から引用されている。
しかし、出身地の北海道や音楽業界内での取材結果から書かれたエピソードは、
なかなか興味深い。

みゆき本人が思春期を過ごした帯広では一度もコンサートが開かれておらず、
知人が招いても応じないそうだ。
これが本当なら、何かある…と思うのが普通だろう。答えは書かれていない。

また、彼女が後に「言葉屋」を自称するようになったきっかけでもあろうエピソードもいい。
幼い頃、口にしてはいけないことを言ってしまった際、
父に「言葉で切った傷につける薬は無い」と叱られたそうだが、
「切る言葉があるのなら、治す言葉があるのじゃないかと思った」という。
時に中島みゆき、小学校三年生。

ポプコン優勝者は全国のラジオ局で受賞曲を歌うのが当時は習わしだったのに、
「オーディエンスがいないところでは力が入らない」との理由で歌おうとしなかったそうだが、
この頃の加藤登紀子はそんな中島みゆきに共感をしていた。
その共感したというのは何に対してなのか?
それはTVで「時代」を歌うその全身から発せられていた不機嫌さだという。

 ずっと歌をつくっていくことが優先されている人生。
 一生つくり続けていくしかない。

これは2000年の中島みゆきの発言である。
実は以前から密かに思っていたことなのだが、
僕の中では仲井戸麗市と中島みゆきがダブッてきているのだ。
音楽スタイルはまったく異なる二人であるが、僕にとっては似たような資質を感じるミュージシャン。
仲井戸麗市と中島みゆきのコラボは、宝くじに当たるくらいの夢として持っていたいと思う。

さて、山本文緒の章についても触れておく。

 人生の目標を直木賞に定め、それを達成する。
 その後、どーしていいのかわからなくなった。

直木賞受賞後に最も苦しめられたのは、
自分の中からO(山本文緒の本名)が弾き出される感覚だった…というくだりは壮絶だ。
周りの態度が変り、高級スポーツクラブからは本名よりも作家名での入会を依頼され、
男が「直木賞作家とはつきあえない」という理由で去っていく…。
山本文緒が称賛されればされるほど、Oが否定されていく…という状況。
そりゃ、おかしくもなるだろう。

また、受賞作「プラナリア」のエピソードも凄い。
表題作は、山本文緒の身近に実在する人物の体験が小説になったという。初めて知った。
この人物はデヴューしたときのファン第一号で、14歳から手紙を送り続け、
今では姉妹のように慈しみあっているという女性である。
自分の体験を小説にされたときは裏切られたと思い、わだかまりも残ったそうだ。

  「ねーさんが直木賞を獲ったのは嬉しいが、親はあれを読んだら悲しむ」

ある夜に涙を流してこう訴えたら、
山本文緒は「告訴されても、何をおいても、直木賞が欲しかった」と泣いたという。


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